院長風解体新書

「リーキーガット症候群」って聞いたことがありますか?
Leaky(漏れやすい) gut(腸)という意味で、最近になって小麦アレルギーや遅延型アレルギーなどとともに注目されつつあります。
といっても、民間療法を支持する人たちの間では昔から取り上げられていましたが、正式な病名としては認められていない仮説上の疾患とされています。


近年、小麦に含まれるグルテンなどが腸粘膜を傷つけることで、腸の細胞同士の結合部に隙間が生じてしまい、そこから漏出した様々な物質が身体の不調を引き起こしているという説が広がりつつあり、これを「リーキーガット症候群」と呼んでいるようです。

そもそも「小麦/グルテン過敏症」という疾患を、すべての医療者が認めているわけではありません。そして身体の様々な不調を「リーキーガット症候群」で説明しようとする民間療法的な発想は、さらに反発を招く恐れがあります。

いっぽうで腸とアレルギーの関係性については研究が進んでおり、アレルギー性疾患の発症には腸内環境が深くかかわっていることがわかってきました。
免疫細胞の50%が小腸に、20%が大腸に集中していると言われ、病気やアレルギーから身体を守るには、腸内環境を整えて腸を健康に保つ必要があります。
世の中の一部では、健康を保つためにグルテンフリーが流行っていますが、もともとの原因は、小麦アレルギーの主原因がグルテンというたんぱく質だったことで、小麦に悪いイメージが定着したためと思われます。
基本的に小麦にアレルギー反応がない人は、グルテンフリーにする必要はないと言って良いのではないでしょうか。
むしろ腸内環境を整えるような食生活を行うことで、腸内フローラ(腸内細菌叢)を適切に維持することが大事といえるでしょう。

話は「リーキーガット症候群」に戻りますが、有害なものの侵入を阻む腸の複雑なバリア機能が、腸粘膜が障害されることによって、本来なら隙間なく接合している粘膜の上皮細胞間に隙間ができ、人間にとって不要または有害なものが侵入し様々な不調を引き起こすことが、この症候群の病態と言われています。
ところがアメリカ国立衛生研究所が運営するオンライン論文アーカイブで公開されたマイケル・カミレリ医学博士の論文(https://alzhacker.com/the-leaky-gut-mechanisms-measurement-and-clinical-implications-in-humans/#1-2)によると、腸の透過性(漏れ)は病気や食物をはじめとするアレルギーの副次的な反応であり、腸の透過性そのものが身体の不調を引き起こすことはないと明言しています。
つまりは「リーキーガット症候群」と言われるような状態になるのは、漏れ出たものに対するアレルギーによって体内に炎症が生じた結果と考えられるようです。単純にリーキーガットがあっても、アレルギー反応が出ない場合は大きな問題にならない可能性が高いと思われます。

いまだ仮の疾患としての「リーキーガット症候群」ですが、少なくとも過敏性腸症候群や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)については、リーキーガットと関連があるとする意見が有力になっており、また最近は肥満やアレルギー性疾患、さらには精神疾患との関連性を指摘する意見も出てきているようです。

リーキーガットの原因としては、先に述べたグルテンや、乳製品に含まれるカゼインなどの食物アレルギーが主と考えられていますが、薬剤も、例えば鎮痛剤や風邪薬などに含まれるNSAIDsとよばれる薬剤の乱用は腸粘膜を傷害することで、原因になると言えるでしょう。
そのほかの食物や薬剤のなかにも、腸粘膜の障害を引き起こす可能性のものがあると思われます。

薬剤に関しては乱用を避けることで予防が可能だとして、食物のアレルギーに関してはどうでしょうか?

以前当院のコラムで遅延型アレルギーについて触れたことがありますが(院長風解体新書:https://www.hayato-keisei.com/blog/%E4%BA%8B%E5%8B%99%E9%95%B7/entry-131.html)
この検査法として非IgE抗体検査(IgG・IgA抗体検査)があります。しかしながら欧米や日本のアレルギー学会では、食物アレルギーにおいて、IgE抗体検査のような診断的有用性を認めてはいません。参考のため以下に日本アレルギー学会の公式見解を呈示します。
「血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起 2015年2月25日
米国や欧州のアレルギー学会および日本小児アレルギー学会では、食物アレルギーにおけるIgG抗体の診断的有用性を公式に否定しています。
その理由として、以下のように記載されています。
すなわち、①食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体である。②食物アレルギー確定診断としての負荷試験の結果と一致しない。③血清中のIgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけである。④よって、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもある。
以上により、日本アレルギー学会は日本小児アレルギー学会の注意喚起を支持し、食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないことを学会の見解として発表いたします。」

遅延型フードアレルギーについては、まだ研究が始まってからの歴史が浅く十分なエビデンスが不足しているため、何が身体の不調の原因になっているか、通常のアレルギー検査(IgE抗体検査)などでどうしてもわからない場合などの参考程度にしてもらえればと、当院では保険外診療(自費診療)での遅延型フードアレルギー検査(非IgE抗体検査)を行っております。
また、リーキーガット(腸漏れ)の原因となる腸壁のタイトジャンクションの状態を評価するための検査も可能であり、当院でも保険外診療(自費診療)となりますが対応できるようになりましたのでお問合わせください。
遅延型フードアレルギーの検査を併せて行うことで、リーキーガットを起こす可能性のあるもの、体調不良の原因になっている可能性のあるものを探ることができるかもしれません。

「リーキーガット=病気になる」ということではないことを理解したうえで、あくまでも参考としてLeaky gut(腸の漏れやすさ=腸の透過性亢進)がどの程度あるのか、なおかつ原因不明の体調不良が、普段何気なく摂取している食べ物に隠れていないかを探る選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか?

最後にもう一度。
腸内環境を整えるような食生活を行うことで、腸内フローラ(腸内細菌叢)を適切に維持することが何よりも一番大事といえるでしょう。
You are what you eat. ~あなたはあなたの食べたものからできている~


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